【初回視聴率21.1%】大統領選を控えたフランスで、パワーカップルが注目された2つの理由。
Paris 2025.10.22
大統領選が女性のキャリアに投げる影とは?
9月1日、20時のニュースに初登場したレア・サラメ。視聴率は21.1%でTF1に及ばず。フランス2「Journal 20h」より。
9月の番組改編で、今年はニュース番組の新しい顔が話題をさらった。民放TF1の20時のニュースになかなか視聴率が及ばない公共放送フランス2が、同じ時間のニュースに知名度抜群の女性ジャーナリスト、レア・サラメを起用したのだ。レバノン生まれ、10年ほど前、深夜の人気トークショー「On n'est pas couché」のレギュラー出演でカルチャーにも政治にも強いインタビュアーとして名を上げた。エキゾティックな美貌と歯に衣着せぬ鋭い切り込みでラジオ、テレビで活躍、2022年の大統領選では決戦投票前の2候補のテレビ討論を仕切るなど、トップジャーナリストの地位を築き上げてきた女性だ。だが彼女の起用がメディアを賑わせたのにはもうひとつの理由がある。
それは19年以来欧州議会議員を務める、パートナーのラファエル・グリュクスマンの存在だ。昨年行われた比例代表制による欧州議員選挙で、彼が率いるプラス・ピュブリック党が左派トップの13.8%を獲得。新たな社会民主主義のリーダーとして一躍注目を集めたのだ。
2027年の大統領選出馬が噂されるラファエル・グリュクスマン。インテリだがカリスマ性に欠ける、の声も。プラス・ピュブリック党のミーティングより。@mouvementplacepublique
公式の場に揃って姿を現すことはなく、カップルであることもあまり知られていなかったふたり。だが大揺れの政局と1年半後に大統領選を控えたタイミングで、このパワーカップルの利益相反関係――私生活が報道姿勢を偏向させてはならないという倫理観――がにわかに耳目を集めている。11年には、パートナーが社会党内の大統領候補選びに立候補したために活動を休止したジャーナリスト、オードレー・ピュルヴァールの例もある。19年にグリュクスマンが出馬した欧州議員選挙期間中、サラメは政治関係の番組への出演を停止しているが、この時ピュルヴァールは自らの経験を鑑み、「2019年になっても女性はパートナーの政治的意見に影響されると批判を受ける。私たちは影響されやすく、自分の判断ができない小さき存在だとでも? レア・サラメを番組から遠ざけるのは不公正」とのツイートを発信している。
自身もパートナーのためにジャーナリストのキャリアを中断したピュルヴァールの19年のツイート。女性ばかりがキャリアに影響を受けるのか?と問いかける。
グリュクスマンが大統領選に出馬すれば、サラメにとっては成功の証ともいえる20時のニュース降板の可能性もある。彼が大統領に選出される確率は極めて低い一方で、優秀な女性ジャーナリストのキャリアに影が差す可能性は非常に大きいのだ。
パートナーのためにキャリアを犠牲にするのは常に女性なのか? ふたりの立場が男女逆だったら、と考えずにはいられないところだ。
1992年渡仏、2017年より「フィガロジャポン」パリ支局長。不人気記録更新中の大統領、続く首相交代劇、大物政治家の有罪判決とドラマのようなフランス政界に興味津々。
*「フィガロジャポン」2025年12月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)