【憧れの家作り】200年後を見据えて再生した、美しき日本家屋。
Interiors 2026.04.06
家を買う、建てる、建て直す――家を形作ることは暮らし方そのものを考えること。間取りも内装も自由な一方、一筋縄ではいかないからこそ愛着も増すというもの。実際に家作りをした人を参考に、自分らしいマイホームを実現しよう。2026年の新しい生活、まず「家」から始めてみませんか。
憧れの家作り case 7
JAPAN ― CHIBA
大田由香梨

キッチンはシラコノイエの心臓部。左手のかまどは現役で、ここで煮炊きを行う。かまどから出た煙の煤は建物を丈夫に保ってくれる。
ライフスタイリスト
ファッションスタイリストを経て衣食住の全般をスタイリングするライフスタイリストに転身。ホテルや店舗の空間づくりから食やファッションのスタイリングまでジャンルレスに活動中。
東京を拠点に活動する大田由香梨は2021年、縁あって千葉県の沿岸部にある国登録有形文化財の日本家屋を手に入れた。築190年の日本家屋は地域の名主が住まいとしていたもので、主屋と重厚な長屋門(門扉の両側に使用人の居室や納屋などを設けた構造)が特徴だ。改修の設計を依頼した建築家の隈研吾とは、日本らしい暮らしが営まれる場として後世に残したいという思いが一致した。とはいえ、増改築が繰り返された主屋がどんな姿に蘇るのか、見当もつかなかったという。

リノベーションで意識したのは採光。前庭と中庭に繋がる土間の南北に大きな窓を設け、光と風が抜ける空間を作り上げた。
2年にも及んだ改築・改修は、古民家を測量して新たに図面を起こすことから始まった。昭和期の増改築部分を解体しながら再利用できる江戸時代の材を選別し、改修プランを考えた初めの1年は、完成までの道筋が見えず心が折れそうになったことも。けれども煤で黒光りする柱や梁が姿を現すと、この家を棟上げした棟梁の気迫を感じて心が躍った。

かつては雨の日の作業部屋として使われていた土間の一角。畳を張り替えてガラス扉を修繕したら、収納場所に生まれ変わった。
シラコノイエと名付けたこの家で特に気に入っているのは、南に開口部、北に大きなピクチャレスクウィンドーを設けた広い土間だ。南側には古材を使ったダイニングテーブルを置き、かまどが置かれた北側には新たに大きなキッチンカウンターを設置。壁は左官職人の指導のもと、自分たちで藁を練り込んだ材料で仕上げた。新たに増築した北側部分の天井や柱は、表面を柿渋と和墨の原料である松煙で仕上げ、オリジナルの柱や梁とトーンを合わせている。

表玄関である長屋門を入ると目に飛び込んでくるのが、威風堂々たる枝ぶりの大王松(右)。シラコノイエのシンボルツリーだ。
襖で仕切られた4つの客間は、「建物と庭の植物や自然を繋げたい」と考え、庭で採取した植物を主役に。シンボルツリーである大王松の三葉、マキやシュロ、竹林の竹で作った竹炭......富山県の蛭谷和紙の職人の協力のもと、これらの素材を漉き込んだ和紙を作り、壁にあしらった。和紙を張る作業は隈の事務所スタッフや地域住民、一般の建築愛好家を巻き込んだワークショップで少しずつ進めたという。

改修で出た廃材をウッドチップにして練り込んだコンクリートブロック外壁の納屋。中には生活排水を浄水するバイオ浄化槽がある。
シラコノイエが教えてくれたのは、日本家屋で営む昔ながらの暮らしは想像以上に効率的で、現代にもマッチしているということだった。

客間の壁にはそれぞれ異なる庭の植物を漉き込んだ和紙をあしらった。大王松の葉が印象的な表玄関の間。
「部屋ごとの役割が固定されておらず襖一枚で間取りも自由に変えられ、設え次第で寝室にもダイニングにも変化する日本家屋は、空間に対する考え方が柔軟でスマート。夏は開け放って風を入れ、冬は襖で仕切り、使う部屋だけを暖めるからエネルギー効率もいい。建物全体を暖めるよりも機能的と感じています」

奥の間の和紙にはマキの樹皮やシュロの繊維を活用。床の間には、同じ千葉県で活動するアーティスト、浜名一憲の壺にシュロの葉を飾った。
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未来に繋げていきたいもの。

キッチンカウンター前には小上がりの居間を設けた。火鉢を置いてごろごろするのが冬の定番の過ごし方。
春夏秋冬の自然とともにある生活はたくさんの学びや気付き、幸せをもたらしてくれた。庭や竹林の手入れをしたり、近所から大量にいただく果実や野菜を保存食にしたり、田舎暮らしはせわしない。だが、この生活を経験したことで衣食住をスタイリングするライフスタイリストとして伝えたい物語を、自分の言葉で発信できるようになった。

左:改修した土間北側の廊下部分。日本の伝統塗料を用いてオリジナルの部材と表情を揃えた。 右:離れの物置と厠を改修した、広々としたバスルーム。柔らかな曲線の川石のバスタブを置き、家屋に放置されていた古い梅干し壺に庭木を挿している。
「この家を通じて190年前の誰かの思いを継ぐことができると実感し、私も次の世代へ価値あるものを残したいと思うようになりました」という大田。シラコノイエが体現する日本の精神や美意識を体験できるワークショップやホームステイ受け入れの準備を進めているところだ。

かまどに火をおこし、銅のやかんで湯を沸かす。必要以上にものを持たないというシラコノイエでは、茶器や湯呑みも少数精鋭。

庭で採れる梅や近隣住民からいただく果実は保存食やシロップに仕立てて。自らの手で作る食材や保存食が食卓の醍醐味。
*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋
photography: Midori Yamashita text: Ryoko Kuraishi






