【憧れの家作り】住まいにエコシステムを持ち込む、パリ発・自然とアートと共生する空間。
Interiors 2026.04.01
家を買う、建てる、建て直す――家を形作ることは暮らし方そのものを考えること。間取りも内装も自由な一方、一筋縄ではいかないからこそ愛着も増すというもの。実際に家作りをした人を参考に、自分らしいマイホームを実現しよう。2026年の新しい生活、まず「家」から始めてみませんか。
憧れの家作り case 2
FRANCE ― PARIS
サラ・ヴァレンテ

Sarah Valente
造形作家
祖父は故郷イタリアから戦後フランスに移住した大理石職人、父は省エネリフォーム業者で、家の修復が身近な環境で育つ。高校卒業後、独学でアーティストに。2021年、森林や生態系の保全に取り組むグリーンライン財団を設立。
@s.a.r.a.h.v.a.l.e.n.t.e
家の中に森が隠れている。そう言いたくなるのがこの"カーサ・フランカ"だ。パリで初めてファサードに版築(土を突き固める製法)を用いた木の家は、パリ18区の袋小路に立ち、内部には自然豊かな空想の世界が広がる。バオバブの木、蛇、ジャングル、花、昆虫、鳥などなど。このエコシステムを考案したのが造形作家のサラ・ヴァレンテだ。6年前にこの場所が売りに出ていたのを見つけ、即決した。

建築模型でわかるように、密集した都市環境に埋め込まれた垂直構造の家。「パリにいるのを忘れさせてくれる旅を感じる場所にしたかった」とサラ。
「とてもお買い得な価格で、貯金もあったので迷うことなく購入を決断しました。でも実際に工事に取りかかるまで3年を要しました。更地に戻し、環境に配慮しながら美しい住まいを建てようと思い、ファサードには生土を使いました。コンクリートに比べて環境汚染が10分の1で済みます。木造構造を採用し、雨水回収システムも設置しました」
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アーティストたちが協力。

寝室に併設された明るいバスルーム。壁面は彫刻家バジル・ブーンによる陶製レリーフ画で、森の中に狩猟の女神ディアナが描かれている。ディアナの顔はサラの祖母フランカをイメージしているそう。
建設にあたってサラが協力を仰いだのは、無駄を排し、工夫を凝らすことで環境に配慮する建築家フィリベール&エマニュエル・デシュレット。周囲に建物が密集しているため、採光はファサードからしか取れない。そんな垂直構造を設計するのにイメージしたのは、地下室の天井に根を張り、各階の床を突き抜けていく一本の木だ。そこには独特な動植物が繁殖している。動物、虫、花、雑草のすべてはここで生まれた"固有種"のみ。すべてがこの唯一無二の場所のために、サラのために、長年繋がってきたアーティストたちが創り出したものだ。玄関にはクリエイティブデュオのパンゲアが描いた旗が翻り、蛇が横切っている。パンゲアは2階にあるアーティスト・イン・レジデンス用の寝室ふたつのベッドカバーも手がけた。ここにはシリル・ドゥボンの陶製カエルやルー・ロスの鳥のモチーフ「Cui-Cuis」など個性的な作品が置いてある。ヨガや映画の上映もできる多目的ルームには、ポリネシアの職人技を彷彿とさせるルイ・バルテルミーによる手刺繍のタペストリー「トロピカル・パラダイス」が掛かっている。

最上階にあるサラの寝室。イラストレーターのアリス・リカールが描いた蛇をヴィクトール・ドゥ・ロッシが寄木細工にしてヘッドボードに。
カーサ・フランカは、まるでギャラリーのよう。小物、家具、作品のひとつひとつの置き場所が吟味され、意味を持つことで空間が生かされているのだ。日常の中に楽しくアートが溶け込み、美と実用性を兼ね備えている。作業デスクを照らすのはポール・クレアンジュの光の彫刻で、無限大の記号のように見えるが蛇にも見える。
「蛇はこの家を象徴する存在となりました」とサラは言う。
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室内に広がる幻想的風景。

リビングでは、ヴィクトール・ドゥ・ロッシとエマニュエル・デシュレットが協力して作った本棚に、ポーリーヌ・ゲリエの作品が飾られている。

リビングに飾った自分の作品の横に並ぶのは、マリーヌ・ブレナエルトのキャンドルホルダー。
3階のリビングも同じように不思議な空間だ。ヴィクトール・ドゥ・ロッシによる森のような本棚は、非対称の支柱や枝を思わせるフォルムにマイクロガーデンが組み込まれ、その植物が書籍や写真、旅の思い出の品と混在している。テラスを望むこの部屋は日中、ガラス越しの光にあふれているが、夕闇が迫ると何十本ものキャンドルがまるで炉のように灯されて、幻想的な雰囲気を作り出す。キャンドルホルダーのデザインはマリーヌ・ブレナエルトで、ロウソクも電気も使えるハイブリッド型照明器具や、まるで昆虫のように壁を這うブラケット灯をデザインしたのも彼女だ。

人々を迎え入れ、ミーティングを行うオフィス、思索にふけるアトリエでもあるキッチン。アーティストのユーゴ・シルジュのテーブルに、ヴィクトール・ドゥ・ロッシが制作したトーテムのように積み重なる花のスツールを組み合わせ、マリーヌ・ブレナエルトの照明を付けた。
キッチンスペースではユーゴ・シルジュが制作したテーブルを囲む時間が心地いい。視線を上げれば壁にマルセラ・バルセロのフレスコ画があり、森のような水のような風景の中にぼうっと幽霊のような有機体が漂っている。

テーブルには花のモチーフと色彩がちりばめられ、探検に赴く植物学者の日誌のよう。陶器はアーティストのマリオン・アルタンス・ジェリによるもの。
「この楕円形の作品は窓のようなもので、やや閉鎖的なこの空間に広がりを持たせてくれます。田舎を離れてショックだったのは、都会では視線が常に壁や建物で遮断されること。だから室内に新たな風景を作り出したかったのです」

隠れ家風に仕上げられた地下スペースは本格的なスタジオ仕様で、動画の撮影もポッドキャストや音楽の録音も可能。アントワーヌ・カルボンヌによるフレスコ画と床は、照明を消すと暗闇の中で発光する仕掛け。
地下にも新たな風景を作り出した。目を引くのはアントワーヌ・カルボンヌがここで制作した10メートルの巨大なアート作品だ。マチスのコラージュ作品を連想させるフレスコ画『Planète Secrète(秘密の惑星)』は、生い茂る森の中に善良な生き物や小屋などが点在する。照明を消すと壁の作品と部屋の床が発光し、天の川、恋人たち、極楽鳥が暗闇の中で輝き出す。このスペースでブラックライトを使うことをサラが思いついたのは、ミツバチに興味を持ったのがきっかけだった。
「ミツバチは紫外線を見ることができ、周囲の環境や蜜を吸う花を蛍光のように識別するのです。こんな仕組みを生み出せる自然に驚かされます」
地下には、もうひとつ秘密が隠されている。
「カーサ・フランカの建設に携わった全員が、何かしら思い出の品や絵、彫刻、メダルなどを床下に埋めたのです」とサラは明かす。これこそが、おとぎ話のような建築秘話を持つ貴重な家を象徴する宝物だろう。
*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋
photography: Sylvie Becquet(Madame Figaro) text: Vanessa Zocchetti(Madame Figaro)




