日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回は帰省したマッシの大好物、マンマのラザニアについて! 直伝のレシピも大公開、現地で飲まれている意外なワインって?
実家に帰省した時に、僕は年甲斐もなくわがままを言ってしまった。
「どうしてもラザニアが食べたい」
母は不思議そうな顔をしながら、「どうしてそんな顔をしているの? あなたが食べたいものならなんだって作るのに」と、笑いながらキッチンに向かった。その後に続いて、久しぶりに母の隣でキッチンに立つ。使い込まれた調理器具が並ぶその場所で、「さあ、始めましょう」と母が言った。その手つきには迷いがない。僕はかつての小さな子どもに戻って、その横顔を見つめる。今回の帰省で、僕は母のラザニアのレシピを正確に書き留めようと決めていた。いつかこの味が、記憶の中だけのものになってしまわないように。そして、海を越えた日本の友人たちにも、この温かさを知ってほしかったからだ。
今日は、僕の魂とも呼べる母のラザニアの作り方を紹介しようと思う。

【材料】(4〜6人分)
⚫︎ラグー(ミートソース)
牛挽肉(または牛豚合い挽き肉) 500g
玉ネギ 1個(みじん切り)
人参 1/2本(みじん切り)
セロリ 1/2本(みじん切り)
トマトピューレ(またはホールトマト缶) 700g程度
赤ワイン 100ml
オリーブオイル 適量
塩・胡椒・ナツメグ 各適量
⚫︎ラグー以外の材料
ラザニア用パスタシート(生タイプがおすすめ、乾燥なら下茹で不要のもの) 適量(耐熱皿の大きさに合わせて)
ベシャメルソース(ホワイトソース) 500ml
フォンティーナチーズ(なければエメンタールやグリュイエール、もしくは溶けやすいセミハードチーズ) 200g
パルミジャーノ・レッジャーノ(粉チーズ) たっぷりと(100g以上)
バター 少々(皿に塗る用)
【作り方】
1.ラグー(ミートソース)を作る
鍋にオリーブオイルを熱し、玉ネギ、ニンジン、セロリを弱火でじっくりと炒める。野菜の甘い香りが立ってきたら挽肉を加え、強火でしっかりと焼き色がつくまで炒める。赤ワインを加え、アルコールを飛ばす。トマトピューレを加え、弱火に落とす。時々木べらで混ぜながら、最低でも1時間は煮込むこと。水分が飛び、もったりと濃厚なソースになったら、塩胡椒で味を調える。この煮込みの時間が、愛の時間だ。
2.チーズの準備
フォンティーナチーズは1cm角程度のサイコロ状に切っておく。ピザ用チーズを使っても良いけど、この角切りが溶けた時の独特の食感と存在感を生むから、やっぱりフォンティーナがおすすめ。パルミジャーノは惜しみなく削っておくこと。
3.ベシャメルソースを温める
母が愛用している「Chef」というブランドのベシャメルソースを少し温めておく。Chefはイタリアの家庭ではおなじみの光景だ。もちろん手作りもいいけど、母がこれを使うなら、これこそが「正解」の味だ。缶詰や市販品もOK。少し牛乳で緩めておくと良い。
4.ラザニアの組み立て
オーブンを200℃に予熱する。耐熱皿の内側にバターを薄く塗る。以下の順序で層を作っていく。
①底にラグーを薄く敷く
②パスタシートを敷く(重ならないように、でも隙間なく)

③その上にラグーをたっぷりと広げる
④ベシャメルソースを回しかけ、スプーンの背などで軽くマーブル状に馴染ませる

⑤角切りのフォンティーナチーズを散らす
⑥パルミジャーノをたっぷりと振りかける
この②〜⑥の工程を、皿の深さが許す限り繰り返す(通常は3〜4層)。最後のいちばん上の層は、パスタが隠れるようにソースとチーズで覆い尽くすこと。

これが焼けた時にカリカリのおいしい蓋になる。
5.焼く
200℃のオーブンで20分〜30分焼く。表面がグツグツと沸き立ち、おいしそうな焦げ目がついたら完成だ。オーブンから出しても、すぐには切らないこと。10分ほど置いて落ち着かせると、切った時に崩れにくくなり、味がなじむ。
6.食べる
熱いうちに皿に取り分ける。チーズが糸を引き、香りが立ち上るその瞬間を逃さずに。家族や恋人、大切な人とテーブルを囲み、できればイタリアの赤ワインと一緒に楽しんでほしい。
食べ終わった後、皿に残ったソースをパンで拭って食べる「スカルペッタ」も忘れずに。それが作ってくれた人への最大の賛辞になる。
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熱々のラザニアを皿に取り分ける。フォンティーナチーズが長い糸を引く。フォークを入れると、幾重にも重なった層がほろりと崩れ、湯気が立ち上る。ひと口食べると驚くほど濃厚だ。でも、優しい。肉の旨味やトマトの酸味、ベシャメルのクリーミーさ、そしてフォンティーナの芳醇なコク。すべてが口の中で一体となって、喉を通った瞬間に身体の芯まで温かさが広がる。心から、「おいしい......」と声が出るだろう。
この記事を読んでいる読者にも、ぜひこの「母のラザニア」を作ってみてほしい。少し手間はかかるかもしれない。カロリーのことなんて、この日だけは忘れてほしい。誰かのために時間をかけ、層を重ね、オーブンで焼く。その行為そのものが、愛を伝える手紙になるからだ。日本の食卓で遠く離れた僕の母の味が再現されて誰かの笑顔に変わるなら、これほどうれしいことはない。
1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
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