ソウルバンド「WONK」のボーカルであり、料理人としても活動する長塚健斗。東京・清澄白河にあるナチュラルワインバー「WINESTAND TEO」のオーナーでもある彼が、ワインの向こうに浮かぶ風景や、その物語を----料理と音楽、そして言葉で描いていく。1本のワインから立ち上る感覚をたどりながら、ひと皿と、それに寄り添う5曲のプレイリストを届けていく連載、「酔いと余韻」。今月のテーマは、ナチュラルに栽培されたブドウを発酵し、蒸留したオードヴィーから造られたリキュール「パスティス」に、苺とパルミジャーノのジェラートを合わせて。
【長塚健斗の「酔いと余韻」vol.5】苺とパルミジャーノ、パスティス。「崩れ」の中に潜む色気。
年が明けてしばらく経ち、日常のリズムにもようやくなじんできたこの頃。少しずつ春の気配が近づいてくるような気がしても、まだ空気の冷たさが背中を押すような朝が続いている。そんな合間に作ったのが、苺とパルミジャーノのジェラートだった。甘酸っぱさとコクのバランスがちょうどよくて、最近のお気に入り。ふと、それに合わせたくなったのが、以前出会って印象に残っていたハーブ酒「パスティス」だった。香りの輪郭が、少しにじんでいる。
タイム、フェンネル、ニガヨモギ、アニス......それらが重なって、漂って、ほどけていく。アブサンのような強さを秘めながら、どこか穏やか。その刺激とゆらぎに、少し疲れた身体の感覚がじわりと目を覚ました。ナチュラルな製法で育てられたぶどうを発酵させ、蒸留してつくられたオードヴィー。ワインの柔らかさをほんのりと残しつつ、ハーブだけで組み立てられたその香りは、空気の中にすっと溶けていくような、やさしい複雑さを持っていた。
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苺とパルミジャーノのジェラート
【材料】500cc(5カップ相当)
⚫︎ジェラート
・牛乳(乳脂肪分3.7%程度)290g
・生クリーム(乳脂肪分36%程度)26g
・脱脂粉乳 12g
・グラニュー糖 50g
・ぶどう糖 30g
・水あめ(市販の液状タイプ)15g
・塩 ひとつまみ(約0.5g)
・パルミジャーノ・レッジャーノ(すりおろし)55g
・苺ソース(下記レシピ参照):約35g
⚫︎苺ソース
・生の苺 1パック(約250g/ヘタを除いた正味)
・グラニュー糖 85g
・ぶどう糖 35g
・レモン果汁 10〜15g(約小さじ2〜大さじ1)
【作り方】
⚫︎苺ソース
1. 苺はヘタを取り、縦4〜6等分にカット。
2. ボウルに苺、グラニュー糖、ブドウ糖を入れ、常温で1〜2時間置いて果汁を引き出す。
3. 小鍋に移し、弱火〜中火で5〜7分加熱しながら軽く煮詰める。
4. 火を止めて、粗熱が取れたらレモン果汁を加える(加熱しすぎないことで香りと酸味が立つ)。
5. ハンドブレンダーでお好みのなめらかさに撹拌。※果肉感を残しても◎
6. 完全に冷ましてから使用・保存。冷蔵で3〜5日、冷凍で1ヶ月程度保存可能。
⚫︎ジェラート
1. 粉類(脱脂粉乳・砂糖類・塩)をボウルでよく混ぜる。
2. 鍋に牛乳と水あめを入れて中火で加熱しながら(1)を加える。
3. 約80℃まで加熱して完全に溶かしきる。その後すりおろしたパルミジャーノを加えてしっかり溶かす。
4. 火を止めて、生クリームを加える。ハンドブレンダーまたは泡立て器で乳化するように混ぜる。
5. 粗熱を取ったら、冷蔵庫で4時間以上熟成させる(1晩でもOK)。
6. 冷凍庫で凍らせ始める。容器に入れて、1〜1.5時間ごとにスプーンで空気を含ませるように混ぜる。
これを3〜4回繰り返す。
7. 最後の撹拌(4回目)または、やや固まってきて"シャリシャリから滑らか"に変わり始めたタイミングで苺ソース(約35g)を加える。スプーンやヘラでマーブル状にざっくり混ぜる。※絶対に混ぜすぎないこと(「2〜3ターンだけ回す」ぐらい)
8.再度容器に整えて冷凍庫へ。
食べる前に5〜10分ほど室温に置いてから召し上がれ。
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みずみずしくて、濃密で、ひんやりと温かい。苺のチャーミングな爽やかさと、パルミジャーノの堂々とした熟成感。その甘さが舌の上でふわっとほどけたあとに、
パスティスの香草がじんわりと戻ってくる。
苦味がある。けれど、それはまるで、摘みたてのハーブをそのまま噛んだような、自然な苦味。"身体が受け入れられる苦味"とでも言えばいいのか。
それがむしろ、甘さや旨味を引き立て、この組み合わせに奥行きと余白を与えてくれていた。
「パスティス」というあまりなじみのなかった名前を聞いて、19世紀のアブサンの物語に興味が湧いた。アブサンとは、ニガヨモギを主成分に、アニスやフェンネルなどを漬け込んで造られる薬草系リキュール。19世紀末から20世紀初頭、ヨーロッパではツヨンという成分による健康被害の懸念から禁止された。
けれど、アブサンの香りを愛していた人々は、その香りの代替を求め、やがて、アニスやフェンネルの風味を持ち、ニガヨモギを使わないスピリッツ----つまり「パスティス」が、フランスの食卓やバーに広まっていった。
この"身体が受け入れられる苦味"という感覚に、どこか和菓子の時間が重なる気がした。
よもぎの青く爽やかな香りと、あんこのやさしい甘さ。浅蒸しの煎茶と一緒に、縁側で座布団にあぐらをかいて食べる、あの空気のようなもの。
その時の香りや温度が、今日のこの一杯にもそっと溶け込んでいるようだった。甘みと苦味のバランスに身体がふっと安心し、どこか内側までほどけていく。
ナチュラルな原料で作られた香りは、身体の奥にすっと染み込んでいく。
ナチュラルが正義、というつもりはないし、化学香料や添加物を否定したいわけでもない。ただ、整いすぎた香りや味の中に、「自然界には存在しない何か」を感じ取ってしまう瞬間がある。
精製されすぎた美しさ。飛び道具のような香り。それらが悪いのではなく、「何かを飛ばしてしまった感覚」そのものが、心に残る余白を奪ってしまうのかもしれない。
輪郭の少し崩れた味。どこか"整いきらない"香り。そこには、人をふっと安心させる力があると思っている。
なにかを思い出すきっかけになったり、なにかを許してあげられるような感覚になったり。
粋とか、色気とか。そういうものの正体はなんだろうと、日々の暮らしや表現の中で、ふと考えることがある。
それは派手な演出や、整いきった美しさとは少し違う。ほんの少し歪だったり、少し曖昧だったり、輪郭が揺らいでいたり。そんな"完璧じゃなさ"の中に、不思議と惹かれてしまう瞬間がある。
今日のこのパスティスとジェラートのペアリングにも、まさにそんな余白や揺らぎがあって、それが香りや味わいの奥に、じんわりと"色気"のようなものを滲ませていた。
僕は、そういう"すこし崩れた"ものに出会った時、いつも少しうれしくなる。その揺らぎのなかに、静かに漂っている何かに。そんな気配に、きっとこれからも静かに惹かれていくのだと思う。
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今回のプレイリスト:
WINESTAND TEO
ナチュラルワイン専門ショップ&バー
東京都江東区常盤1-4-9
(清澄白河駅 徒歩8分/ 森下駅 徒歩9分)
営)17:00〜01:30 L.O.(金)
15:00〜01:30 L.O.(土・祝前日)
14:00〜20:30 L.O.(日、祝)
休)月〜木、祝後日 ほか不定休あり
※年末年始、大型連休は営業時間変更となる場合がございます。
店舗公式Instagram(@winestandteo)をご確認ください。
※予約(貸切除く)・DM・現金支払いは受け付けておりません。
※貸切のお問い合わせはメールにて
Instagram
1990年東京都生まれ。4人組ソウルバンド「WONK」のボーカリスト。料理人としての一面も持ち、大学在学中よりイタリアンやフレンチの有名店出身のシェフの下で本格的に修行を開始、都内ビストロの立ち上げに料理長として携わる。現在も商品開発やイベントを開催し、CHEF-1グランプリ2023にも出場。所属レーベルEPISTROPH では「winestand TEO」「Bar phase」2つの飲食店をプロデュース。
instagram: winestand.teo






