Culture 連載

きょうもシネマ日和

世界中が賞賛した黒人メイドと白人女性の奇跡の物語
『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』

きょうもシネマ日和

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「早く観たいのだけど、体力と覚悟が整ってからでないと・・・。」私にはそんな想いを抱いてしまう作品が多々ある。例えば戦争映画、不治の病映画(←勝手にジャンルづけ)、そして、人種差別をテーマにした映画。いずれも感動の裏側にある悲劇と直面しなければならない訳で、それを受け止めるには私なりの覚悟がいる。

今回ご紹介する『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』もそうだった。本年度アカデミー賞では6部門にノミネート、その他ゴールデングローブ賞をはじめ、世界で56部門77ノミネート(2/27時のデータ)。こりゃぁ絶対もう感動するに決まっているのだけれど、同じ女性として虐げられる黒人女性を目の当たりにするのは、たとえ映画とはいえ、つらい。しかも2時間半・・・あぁ、私、大丈夫かなぁ・・・。

しかし、映画が始まるとその心配は春風のように優しい温もりを持って吹き飛ばされた。

当時の黒人差別を真っ正面から描いているのだが、決してシリアスになりすぎず、押しつけがましくもなく、時にはユーモアに溢れ、希望に満ち、あっという間の2時間半だった。


120316mic_02.jpg主演のエマ・ストーン。友人の白人女性らとは違い、結婚にも興味がなく自分の気持ちに忠実に生きるスキーターを好演。ハリウッド界を担う新人女優との呼び声も高い実力派。

1960年代のアメリカ・ミシシッピ州。黒人差別の色濃く残るこの地域では、白人家庭でメイドとして働く黒人女性は"ヘルプ"と呼ばれていた。
南部の上流階級に生まれた白人の作家志望のスキーター(エマ・ストーン)は、優しい黒人のメイドに育てられた女の子。それゆえ黒人メイドに親愛の情を抱いていたスキーターだが、大人になり劣悪なメイドたちの現実に疑問を抱き始める。そして、この現実を社会に知らしめるべく、メイドたちにインタビューを試みるが、誰もが口を閉ざすばかり。そんな中、彼女の説得にほだされたひとりのメイドがインタビューに応じ、そこから社会全体を巻き込んだ大きな事態へと発展していく。

本作は、キャスリン・ストケットのベストセラー小説が原作。この小説は、出版の危機に遭いながらも店頭に並ぶやNYタイムズ紙の書籍ランキング103週連続ランクイン、1130万部を突破している。


120316mic_03.jpgオクタヴィア・スペンサー(左)はテレビ・映画でひっぱりだこの個性派女優。『コーチ・カーター』『スパイダーマン』ほか出演作多数。アカデミー受賞後に何をしたいか?と聞かれ「自分へのご褒美にバストアップの手術をしたい」と言っていたのが何ともキュートだった(笑)。右はスキーターのインタビューに最初に応じたメイドのエイビリーンを演じるヴィオラ・デイビス。

劇中では、作家志望のスキーターが"インタビュー本を作るに至るまでとその後"がさまざまなエピソードを交えながら綴られてゆく。現代に生きる私たちから見ると"ありえない!"と叫びたくなる黒人差別の現実や、結婚→出産→幸せの呪縛に捕らわれる白人女性たち、スキーターと黒人メイドとの友情、黒人メイド同士の絆・・・時には可笑しく、切なく、怒りにふるえ、そして頬に涙がつたっているのに気づく・・・。

主演のスキーターを演じるのは、今年公開の『アメイジング・スパイダーマン』のヒロインも務めるエマ・ストーン。そして、本年度アカデミー主演女優賞にノミネートされた黒人メイドのエイビリーン役にヴィオラ・デイビス(『ダウト~あるカトリック学校で~』)。また、本年度アカデミー助演女優賞を見事獲得した黒人メイドのミニー役、オクタヴィア・スペンサーを始め、登場するキャストたち(ほぼ女性)の演技が本当にすばらしかった。

その誰もがいわゆるステレオタイプな演技なんて一切なく、緻密でブレがない、それでいて生き生きとした魅力に溢れていた。黒人メイドに徹底的に冷たくあたる白人女性ヒリー役のブライス・ダラス・ハワードは、もう憎たらしくてしょうがなかったけれど(笑)、一方で彼女の今まで見たことのない一面に驚かされた。作品上では対立している白人・黒人女性キャストだが、その誰もが監督に絶大な信頼を寄せ、本作への並々ならぬ情熱を抱いているのを感じる。


120316mic_04.jpgピンクの薔薇のワンピースを着ているのが、ヒリー役のブライス・ダラス・ハワード(ロン・ハワード監督の娘さん)。彼女らの60年代ファッションやヘアスタイルにもぜひ注目を。

監督のテイト・テイラーは、原作者のキャスリン・ストケットと幼なじみで、原作が出版されるまで彼女を励まし続けたという。劇中には、黒人メイドたちが作る南部料理の数々が披露されたり、重要なシーンで流れるボブ・ディランほか懐かしい名曲が流れるなど、映画ならではの楽しみもふんだんに盛り込まれ、監督のセンスのよさを随所に感じた。

本作は、ハリウッドでは無名な監督作品ゆえ、小規模での映画館公開だったのだが、公開後の評判が評判を呼び、3週連続のNO.1の大ヒットを記録。2012年ハリウッド最大のサプライズとも言われた。


120316mic_05new.jpg映画原作本『ヘルプ 心がつなぐストーリー』は、日本でも集英社文庫から発売中。
©2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

今、改めて振り返って考えてみる。

本作が1960年代の黒人差別をテーマにしながらもこんなに私の胸を打つのは、登場するスキーターやエイビリーンたちが何とか現状を変えようと大きな勇気を持って一歩前に踏みだしたから、かも知れない。

そんな彼女らを見ていたら、自分ができない理由を周りのせいになんてできなくなる。たとえ、小さな一歩でもいい。彼女らのように社会までを巻き込むことなんてできないけれど、でも、自分の世界を変えることができるのは自分しかいない。そこには時代も人種も、何も関係ないんだ。


『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』
●監督/テイト・テイラー
●出演/エマ・ストーン、ジェシカ・チャステイン、ビオラ・デイビス、ブライス・ダラス・ハワード、アリソン・ジャネイ、オクタビア・スペンサー
●2011年、アメリカ映画
●配給/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
●146分
3月31日(土)より、TOHOシネマズシャンテ(Tel. 03-3591-1511)ほかにて公開。
http://disney-studio.jp/movies/help/
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