映画ジャーナリストが「10回は観直した」、究極の名作6選。
Culture 2026.03.10
アカデミー賞も近づき、話題作も目白押しな昨今。新作への期待はもちろん高まるばかりなのだが、一方で「繰り返し観たくなる」作品に出合えるのも映画の魅力。フィガロジャポンのインタビューや作品評でもお馴染みの映画ジャーナリスト2名に、「10回は観た」という思い出の作品を3本ずつ選んでもらった。映画のプロがハマる映画、ぜひ堪能して。
選者:立田敦子
『ゲームの規則』|1939年、ジャン・ルノワール監督
学生時代にエリック・ロメールに夢中になった私は、遅れて出合った『ゲームの規則』にその原点を見て、衝撃的なほどに胸を射抜かれた。舞台となっている貴族の館はモノクロながら、とても華やかで美しく魅了された。しかしながら、そこで展開されるのは、見栄や嫉妬、臆病さを抱えた人間くさい群像劇。優雅で、かつなんて残酷! 軽やかさを纏いながら、容赦なく核心を突く。ライフタイムのマイベストを問われれば、いまでも迷わず不動の1位に挙げる一本。
『山の音』|1954年、成瀬巳喜男監督
私は小津より、成瀬派なのだが、 "小津的女性像"の体現者として語られることが多い原節子も、成瀬巳喜男映画で見るほうが断然好きだ。中でもお気に入りは『山の音』。夫の冷ややかさに人知れず傷ついている菊子(原)の複雑な心情を言葉でなく佇まいで表現する。それを慮る山村聰演じる義父と菊子の、沈黙の中で交わされる視線や感情のさざ波がなんともいえずエロティックなのだ。昭和という時代ながら、女性の内面を繊細に描くその真摯なまなざしは何度観返しても胸に迫るものがある。
『インセプション』|2010年、クリストファー・ノーラン監督
ノーラン作品のなかでも、私にとって『インセプション』は最もエモーショナルな一本。"パリが折りたたまれる"シーンには度肝を抜かれたが、精緻な構造やアイデアの強度以上に胸を打つのは、コブが抱え続ける亡き妻モルへの愛と罪責。夢の深層へと降りるたび、その後悔はより鮮明になる。そして、あのラスト。独楽が止まるのかという謎と、宙吊りのまま残される感情の余韻。コブの"夢"の中に何度も引き戻されたくて、私はまたそこへ潜り直している。
●監督/クリストファー・ノーラン
●出演/レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤールほか
●145分、アメリカ、イギリス映画
Amazonプライムビデオでレンタル視聴可能
大学在学中から編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
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選者:金原由佳
『魚影の群れ』|1983年、相米慎二監督
相米慎二監督の作品は、主人公が無自覚で持つ、譲りようもない執着を炙り出すので大好物。今作は夏目雅子演じるトキ子が見せる、緒形拳演じる父親へのエレクトラコンプレックスのありようが美しくも狂気に満ちていて、同じ種を自分はきちんと捨てて大人になれているかと、何度も確認の上で見直してしまう。偉大なマグロ漁師である父を超すようにと佐藤浩市演じる夫を焚き付けていくのだが、肝心の父も夫もトキ子の情熱に負けまいとしてマグロに取りつかれているので、執着のトライアングル劇ともいえる。私の大好きなティルダ・スウィントンがエジンバラ映画祭で本作を見て、日本人関係者の元に走り、「いますぐ、この監督を紹介して」と言ったのは有名な話。2026年、4K化の上映の計画があり、伝説の演技を観るべし!
『落下の解剖学』|2023年、ジュスティーヌ・トリエ監督
大切な人と破綻してしまった経験者のバイブルでしょう。離婚とは不思議なもので、もう愛情の欠片がなくなって別れても、何かやり直せる別の方法があったのかと繰り返し考えてしまう。おそらく失敗した自分への戒めの感情で今作とトルコ映画『雪の轍』(2014年、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)は私にとっての破綻劇ツートップ。子どもは親を喜ばせる仕草をしてしまう描写も含め傑作。昨年、ザンドラ・ヒュラーさんに取材する機会を得て、インテリジェンスあふれる答えで心底惚れ直し、彼女の能面のような貌に宿る微細な表情を読み取る作業を確認する上でも何度も見直してしまう。
●監督・共同脚本/ジュスティーヌ・トリエ
●出演/ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツほか
●152分、フランス映画
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『ニーチェの馬』|2011年、タル・ベーラ、アニエス・フラニツキ共同監督
何かよからぬ事が、山の向こうからやってくる。それまでは粛々と毎日、同じ行動をし、同じく茹でたジャガイモを食すしかない。しかしながら、どんなひどい惨事でも、初めての経験が来るのではないかと人はどこかで希望し、むしろ破滅願望を募らせてしまう。いま、まさに世界を取り巻く政情の不安の中に身を置く人々が抱いている厄災が来る予兆を見事に映像化した作品。私の愛する吉田大八監督の『敵』(2025年)、監督ユニット5月(平瀬謙太朗+関友太郎)による『災 劇場版』(26年)、蔦哲一朗監督の『黒の牛』(26年)の源流ともいえる傑作!
●監督/タル・ベーラ、アニエス・フラニツキ
●出演/ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ ほか
●154分、ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ映画
著書に映画評論集『ブロークン・ガール』(フィルムアート刊)、編著に『相米慎二という未来』(東京ニュース通信社刊)、相米慎二没後20年の命日に発売された単行本『相米慎二 最低な日々』(ライスプレス刊)など。共著に日本映画の黄金期を支えた美術監督のアートワークを紹介する『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーネットワーク刊)。






