リアル体感型映画『ナースコール』から待望の続編『ウィキッド 永遠の約束』まで、映画館で観たい注目作4選。
Culture 2026.03.01
人手不足の病院をスリリングな90分で描く没入型映画『ナースコール』はじめ、陰謀論者にカリスマ経営者が誘拐される『ブゴニア』、ついにフィナーレを迎える『ウィキッド 永遠の約束』、そして実話に基づく世界的ベストセラーをキリアン・マーフィーが演じる『決断するとき』。世界中の映画祭で受賞・ノミネートされた作品が続々と公開されているいま、映画館で観たい4作をご紹介。
01.『ナースコール』
文:佐々木俊尚 文筆家、情報キュレーター
生死を分かつ医療現場の、何物にも代えがたいこと。
人手不足でギリギリの病院、女性看護師の絶え間のない激務やトラブル。その過酷さを当事者視点的にドキュメンタリーのように描いている。そう端的に説明してしまうと、よくある社会告発映画のようだが、本作はそんな単純な作品ではない。緻密なリサーチによって徹底的にリアルに看護師の仕事を描き、それが結果として緊迫感に満ちた極上のサスペンス映画に昇華しているのだ。
個人的な話で恐縮だが、私は新聞社にいた30歳代に脳腫瘍を患い、長時間の摘出手術を受けたことがある。事件記者の激務が祟ったのか、その後も心臓病など複数回の手術を経験し、病棟には何度もお世話になった。毎回驚いたのは、医療従事者の措置はいつも的確でよどみがなく、おまけにとても親切で心優しいということだった。不安を抱え心細くなっている患者には、彼ら彼女らの的確さと優しさはかけがえのない心の支えだった。
本作を観て私が大きな気づきを得たのは、患者にとってそのありがたさが唯一無二なのに対し、医療従事者はかけがえのなさをすべての患者に提供するという重い使命を抱えていることだった。冷静に考えれば当たり前なのだが、患者は自分の病気に心がいっぱいすぎて、医療スタッフの抱えている重さには気づくにくい。しかもその重さを、少しでも誤った行為があれば死を招きかねない医療の現場では日々粛々と実行していかなければならない。それはどれほどの緊張なのだろう。
その重さと緊張と無比の「かけがえのなさ」を、当事者の心理までをも含めてサスペンスフルに描き出しているのが本作である。異様なまでに没入感の高い映像に、観客は自分が看護師として重圧と緊張に打ちのめされそうになる感覚をリアルに体験することができるだろう。
●監督・脚本/ペトラ・フォルペ
●出演/レオニー・ベネシュ、ソニア・リーゼン、アリレザ・バイラム、セルマ・ジャマールアルディーンほか
●2025年、スイス・ドイツ映画
●92分 ●配給/スターキャットアルバトロス・フィルム
●3月6日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://nursecall-movie.com/
文筆家、情報キュレーター
毎日新聞社社会部などを経て2003年に独立。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版刊)、『フラット登山』(かんき出版刊)ほか多数。ラジオやネット番組のレギュラーも務める。
@sasakitoshinao
---fadeinpager---
02.『ブゴニア』

©2025 FOCUS FEATURES LLC.
誘拐されたカリスマ経営者の、大逆襲の行く先。
組むたびに先鋭化する黄金コンビ、主演エマ・ストーン×監督ヨルゴス・ランティモスの荒唐無稽かつ現代的なダークスリラー。マックイーンのスーツを颯爽と纏うバイオテック企業のCEOミシェルが、田舎者の珍コンビに誘拐される初っ端から人を食っている。主犯格の養蜂家はミツバチをこよなく愛し、宇宙的な陰謀論をこじらせて地球生態系の"破壊者"を拉致・監禁。義憤と哀愁を秘めたイカレ野郎というのがミソで、相手を説き伏せる頭脳戦をミシェル自ら放棄する映画の転換点が鳥肌ものだ。地球をいよいよ危うくする人類への警鐘か、惜別の歌か。蜜色から原色へ、密室の悲喜劇からディザスターSFへとフィクションの軸足が変容するおもしろさ。やけに澄んだ浄化作用がある。
●監督・製作/ヨルゴス・ランティモス
●2025年、アイルランド・イギリス・カナダ・韓国・アメリカ映画
●118分 ●配給/ギャガ、ユニバーサル映画
●TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開中
https://gaga.ne.jp/bugonia/
text: Takashi Goto
---fadeinpager---
03.『ウィキッド 永遠の約束』

© Universal Studios. All Rights Reserved.
対極の魔女が織りなす友情物語、フィナーレへ。
父や同級生から疎まれた総督の娘エルファバと、典型的アメリカンチアリーダーのように陽キャの人気者グリンダ。シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデ競演の物語は、前作『ウィキッド ふたりの魔女』(2024年)のマジカルな飛翔と反乱によってエルファバが「邪悪」の烙印を押される危機の時代へ。オズを統治する偽の魔法使いも紳士然とした胡散臭さを増す。『独裁者』(1940年)のチャップリンさながらに地球儀をエレガントに操り、踊るジェフ・ゴールドブラム! カンザスから来た少女の存在がオズの国の運命を動かす。アメリカ人の心の故郷であるベストセラー小説『オズの魔法使い』を別の角度から辿った末、名曲「フォー・グッド」に乗ってエメラルドシティと深緑の森が呼応する。
●監督/ジョン・M・チュウ
●2025年、アメリカ映画 ●137分
●配給/東宝東和
●3月6日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開
https://wicked-movie.jp/
text: Takashi Goto
---fadeinpager---
04.『決断するとき』

© 2024 ARTISTS EQUITY. ALL RIGHTS RESERVED.
ささやかゆえに尊いクリスマスムービーの真髄。
1985年のアイルランドの波止場町、石炭を商って妻子を養うビルは、納入先の修道院でサラと名乗る見知らぬ娘に助けを求められ、保護や慈善を名目にした同院の秘密に気付く。少女映画の佳作『コット、はじまりの夏』(2022年)の原作者でもある作家、クレア・キーガンの『ほんのささやかなこと』に惚れ込んだキリアン・マーフィが映画化を熱望。町ぐるみの因習の同調圧力に呑まれつつサラを捨て置けないビルの「決断」とは? 雪の音、鐘の音、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が、折しも聖夜の静寂に染みわたる。見た目はみすぼらしい、キリアン演じるビルの心根のよさが凍てついた町を解きほぐすよう。修道院長役のエミリー・ワトソンがベルリン国際映画祭で助演俳優賞を受賞。
●監督/ティム・ミーランツ
●2024年、アイルランド・ベルギー映画 ●98分
●配給/アンプラグド
●3月20日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://unpfilm.com/ketsudan/
text: Takashi Goto
*「フィガロジャポン」2026年4月号より抜粋






